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「先生、お話があります。」
神妙な面持ちでルームに訪れたチームメンバーの周紀を、ウォーリックはソファへ座らせ手際良くコーヒーを煎れた。
その空気から、深刻な話の様子だ。
幸い、話を混ぜ返しそうなシェスファはブラウリヒトを引きずって買い物に出かけている。
その時間を利用して読書でも、と考えていた矢先の来客。
あえて語らず、周紀の言葉を待つ。むしろ彼女はその時間を長い時に感じたかも知れない。
「自分はチームから脱退します。」
その言葉にカップを滑らせそうになる自分を律しながら続く言葉を聞く事に努める。
「先生は自分の一族の家宝についてご存知ですよね。」

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何度も聞いた事のある悲願。
周紀がアークスである理由の一つ。
奪われた家宝を取り戻し、その守護の一族としての責務を果たす事。
宇宙を駆け巡るアークスであればそれに出会う機会を得る事が出来る。
「それについて大きな手がかりを得ました。アークスとしての活動を一旦停止しても、自分はやらなければならないのです。」
ウォーリックは静かに言葉を聞きながらも、彼女を右腕としての存在と当たり前に感じていた事を自覚していた以上に思い知らされた。
いつからかウォーリックを先生と呼び慕い、常に影の様に補佐し、戦いの際には先陣を切ってゆく周紀は仲間として無くてはならない存在だった。
だがウォーリックは声を抑え穏やかに口を開き言葉を紡ぐ。
「分かった。周紀さん、君の思う様にすればいい。それは君が君である為にやらなければならない事……そうだね。」
「先生、本当に済みません……」
唇を噛み締める周紀の想いは充分に伝わってくる。
ならば彼女を送り出すのもウォーリックのやるべき事。
「気にしなくていい。大切なものは変わらない。家宝を取り戻せるよう、僕も心から願うよ。」


深々と礼をして退出した周紀を見送ると、またもう一人の来客があった。
顔を隠す様に黒いアイハットを被り、カテドラルスーツに身を包んだアークス。
封書を音も無く取り出して、ウォーリックへ手渡す。
言葉は無い。
鍔と襟元の隙間から覗かせた鋭い眼光だけが、物言わずその中身に記されているであろう内容の過酷さを語る。
データでは無く文書で直接的に手渡す。
それはバックアップもハッキングも許さない勅命という事だ。
封書から顔を上げた時には男の姿は無かった。
ペーパーナイフで封書を裂き、中身を確認すると文書を燃やし、その灰すら跡形も無く処分した。
ウォーリックの表情は既に周紀への感傷を打ち消し、鋼の面持ちで決意を新たにするのだった。


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「たっだいま〜! 兄様! 見て見て、リヒティさんにお洋服買って貰ったの! それに美味しいケーキも! 一緒に食べよっ! 」
元気に帰って来たシェスファの声が残響高く響く。
だが、いつも暖かく迎えるお帰りという声は無い。
「あれ? 兄様?」
きょとん、としたシェスを迎える言葉は耳慣れてはいるものの、従兄のものでは無かった。
「ケーキ? それはハルさんも聞き捨てならない言葉だじぇ♪ 」
隣室のドアがシュッと開き、枠にもたれかかったハルがウインクでシェスを迎える。
パッとシェスファの顔が輝き、ハルへ駆け寄った。
「ハルさん!? 遊びに来てたの? 兄様はどこ? 」
「わっちもハルちんも入れ違いで来た様子。ウォーさんは見てない……」
いつの間にか背後のソファへ優雅に座った晩白柚の姿があった。
気怠げに淡々と返答をする。
「久しぶりに顔を見せに来たと言うのに……天使を邪険にするとは不届き千万。ケーキの無い暗黒の未来が待つだけ……」
黒いイブニングドレスの裾を退屈そうに弄びながらも、既に右手の指先でくるりくるりと器用に銀のフォークを回転させる。
回転する銀色は折をなす綾のごとく美しい。この娘の見事な指捌きがよく分かるその技だ。
「ハル、晩白柚、ここはお前達の家じゃ無い。」
ブラウリヒトが重い口調で諭すがハルはニヤリと笑い返す。
「ここはハルさんの別荘だじぇ。」
「わっちも時に安寧を求めることもありんす。」
二人の言い分はウォーリックが出入りを許可している事をそれぞれの解釈として主張するものだ。
ブラウリヒトやシェスファがラグズに来る前から自由に出入りしていた二人にとって、気にする事は何も無い。
そのふてぶてしさたるや猫の如しであった。
蒼き光の輝きも鈍く、ブラウリヒトはため息をつかざるを得ない。
その後、乙女達の積極的な食欲によって数ホールの甘い城塞は容易に跡形も無く攻め滅ぼされた。


荒涼とした空気と憂鬱な色だが鮮やかな美しさが混じるナベリウス遺跡。
ここで合流する人物がいる。
指令書に書かれた通り、一人で演習に出ると申請し現地へ到着し、黒いパニッシュジャケットに身を包み、ウォーリックは普段とは違う様相をしている。
緊張とは違った険しさ……おそらくシェスファがこの従兄を見たならば違和感を感じるであろう。
そこへ現れたのは一人の女性アークスだった。
「ごきげんよう、ウォーリックさん。」


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軽く微笑むと優雅に礼をする。海よりも鮮明な青く長い髪を後ろに纏めた端正な人物。
細い顎に薄い唇。だがそうした怜悧なものを冷たく感じさせないのは、穏やかな表情そのものにあるのだろう。
青いノーブルアーティナを纏った姿は戦場を舞う可憐なワルキューレにも見えなくは無い。
「ラピス……さん。なるほど、貴女が今回の介添人……と言う訳か。」
互いは共通の友人を介して知り合い、何度か任務を共にしている。
テクニックでの補佐を得意とするラピスは肉弾戦の強襲戦術を取るウォーリックとは戦闘バランスが良い。
「任務の意味は……」
「もちろん、承知です。」
再びくすっと笑う。彼女は任務の重さを寧ろ去なし、楽しんでいるようだ。
二人に課せられた任務。それは【人を喰らうダーカー】の処断。
ダーカーはフォトンに引き寄せられ現れる。
故にアークスとは切り離せない。その結果倒す事はあっても食人行動に出るという事は無い。
だが、この数週間ナベリウスに現れるダーカーにその傾向が見られ、殲滅教団の腕利きの聖騎士数名と介添人も幾人か犠牲になり、ウォーリックが指名される事となったのだった。
「【切り札】の一人がついに出番になった、という訳ですよね? 」
その台詞はウォーリックの立場とその存在が何であるかを理解しているという証明だ。
「それは過大評価……僕は単に使い捨ての始末屋ですよ。」
ラピスから注がれるウォーリックへの視線は信頼とともに不思議な色に染まっている。
通常の作戦では何度も死線を共にした。
彼は常に冷静であろうとし、険しい中にも優しさを絶やさない不思議な包容力を感じる男だった筈だ。
今のウォーリックは彼らしく無い冷酷さ……否、怒りだ。冷たい怒りを胸にしているように見える。
「ラピスさん、貴女が何故介添人に選ばれたかは知らない。」
言葉を切り、横目でラピスをみたウォーリックの瞳に感情は薄い。
「引き返すなら今だ。僕は単独でこの任務に赴いて構わない……」
「ふふ。そんな表情(かお)は貴方に似合いませんよ。ご心配なく。私はこの任務が終わったら食べたいスイーツがあるんですから。」
心地よい声音を転がし、ラピスは笑顔を絶やさない。


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彼女の口癖……というよりも誤謬には、次の瞬間には死んでしまうのではないかと思わせる儚さと能天気さが混じっている。
現在、単独で行動してはいるものの、ジョークめいてチーム名にそうしたお遊びを入れてマスターを努めていたラピスは何処まで生死に対してこだわりを持っているかウォーリックの眼をしても読み取るのは困難だった。
「分かった。僕もこれ以上については警告しない。」
「よろしくお願いします♪ 」
瓦礫を踏みしめ、雑草を分け、モノリスの輝きに警戒しながらも二人が足を進める。
「私、騎士団のかたはカテドラルスーツで任務に当たると思っていたんですけど、違うんですね。」
「僕は始末屋……騎士団の言う聖戦にでもならなければ本式で正装する事はない……そういう事です。それに着慣れたこいつの方が事はやりやすい……」
感情は薄いが、パニッシュジャケットの襟を指で弾く仕草をしてみせる。
「騎士団は都市伝説の方が都合がいい……とも聞こえますね。」
ラピスは聡明な女性である事を何気ない言葉から発していた。厭味無く本質を見ている人だとウォーリックは胸の中で呟く。
「!! 」
モノリス裏に気配を感じたウォーリックがバイオドゴルドをパックから速やかに拳へ同化させステップインから右へ踏み込むと同時に、ラピスはシフタを付与し直後にデバンドのチャージを開始する。


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一見クラパーダに見えるが、明らかに亜種。
硬質化した外殻、大型の顎の形状……ストレイトチャージの一撃を見舞うがその衝撃に耐えきったその状況を見るやチャージしたデバンドを付与する。
襲いかかるダーカーをスウェーでかわす……しかしそれを凌ぐ速度で鋏が顔に襲いかかる。裏券を利用したパーリングで弾くが、バックハンド・スマッシュに繋げる事が出来る余裕を与えてはくれない。
むしろその鋏をを弾いた衝撃はただでさえ硬いクラパーダのレベルでは無い。ラピスの援護が無ければすでにかすり傷では済まない相手だ。
「ラピスさん、感謝する!」
「いえいえ、これからですよ!」
更にチャージされたシフタでウォーリックの拳に力が籠る。
時間をかけず速やかな始末を。
その言葉を浮かべる前に肉体が体現させる。跳躍すると大地へ拳を叩き付けると辺り衝撃波が走り、その振動で亜種クラパーダを気絶させた。
迫り来ようとしていたもう一体……ガウォンダの姿をあぶり出すと更に一歩踏み込こむ。今ならば対処も不可能ではない。
苛烈なバックハンド・スマッシュを二連続で下腹部へ叩き込むと彼方へ吹き飛ばした。
残るクラパーダも気絶を幸いにラッシュを仕掛け、ペンデュラムロールからフラッシュサウザンド、バックハンド・スマッシュに繋げて昇華させる。


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「お見事♪ 」
ラピスの明るい声と反してウォーリックは低い声で答えた。
「どうやら、今ここはとんでもない地獄に変わっているようだ……」
解除したナックルに守られていた筈の右拳は血を流し、傷を負っていた。
苦々しいものを吐き出す様な表情。それは騎士団への不審、六芒の眼の曇りへの苛立ち、様々な想いともとれる顔だった。


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そしてその一方、暗号をシップを経由し各船団にいる騎士団へと送った。
「獲物は闇よりも深き暗闇にあり。抗えしは猟犬ならず。狼の牙のみ。」と。


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マボロシノナキガラ【2話】

八代さん、マァナさん結婚式裏話【企画・司会・神父編】

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ハル

遂に始まったマボロシノナキガラ!
第1話から激しい戦い…波乱の予感ですな…

2015年02月11日 03:13

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赤雪

執筆おつかれさまです!いよいよ再始動だね!
ウォリさんの覚悟が伺える第一話!今度はどんな物語が描かれるのか楽しみにしてます!!

2015年02月11日 04:24

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こぬこぬ

新章執筆お疲れさまです (*´∀`)♪
待ちに待ちましたよー(*´ω`*)
これからの展開にワクワク胸踊らせながら次回楽しみにしてます!(っ'ヮ'c)ウゥッヒョオアアァアアアァ

2015年02月11日 08:51

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ウォーリック

Re: タイトルなし

真っ先にありがとー!
開始早々相変わらず危ない橋渡りですが、さてハルさんの展開はどうなるかも期待ですのん!

2015年02月11日 22:19

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ウォーリック

Re: タイトルなし

>赤雪さん。
また色々波があったけど、そろそろ自分を許しつつ頑張りやす。
気楽に楽しんで貰えたら何よりです!
とんでもないゲストも出ますから!

2015年02月11日 22:24

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ウォーリック

Re: タイトルなし

> お待たせしました。
ここにきてまた出演希望も増えたりで構成盛り直しなんですが、頑張りまする、

2015年02月11日 22:28

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homura

ぐへへ遅くなりましたが読ませて頂きました!
続きが気になりますw
お忙しいとは思いますが楽しみに待ってますね♪

2015年02月13日 01:12

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スバル

執筆、お疲れ様でした! ワクワクしながら読ませて頂きました~。

2015年02月16日 10:13

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ウォーリック

Re: タイトルなし

ほむさん、返信遅くなりましたがジワジワそして本日アップしますよ〜
よろしくです。

2015年02月26日 20:19

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ウォーリック

Re: タイトルなし

第二話、早速ばるさん登場回w
緊張して読んで下さい。

2015年02月26日 20:20

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