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崩れ落ちるファルス・アンゲル。
だがそれは真の姿に変わる序章でしかなかった。
「DF【敗者】!?」
更に巨大で、莫大なエネルギーをもつ存在へシェスファが恐れをもって名を呼んだ。
「貴様らに踊らされた僕はさしずめ【道化師】(クラウン)か……」
自嘲を込めたDFの声が響く。
「【敗者】であろうと【道化師】であろうとも僕はDF……この力とくと味わえ!」
振り下ろされた巨大な刃が盤上の床を叩きつけ、一同を吹き飛ばす。
外見こそ同じだが【敗者】にはない底知れぬ何かがこのDFにはある。
それは対峙しているこのアークス一同が感じる戦慄だった。
「ははは! アークス風情が!」
連息で振り下ろされる剣の衝撃はその範囲も広く、逃げるだけでも精一杯……巻き込まれればその威力で意識すらとばされかねない。
余裕に満ちた嘲笑がフィールドに響く。
「悔しいけど【敗者】以上?……対抗策は少ない……か」
苦々しく赤雪が呟くいた。
叩き付け、薙ぎ払う。
単なる物理攻撃だけで歴戦の彼らが追いつめられて行く。
単純な事だが治癒と致傷の幅に差がありすぎるのだ。
癒える前に傷を負わせ、深さが手遅れになるよう、それを楽しむかの如く【道化師】の刃が弄ぶ。
疲れを消せぬうち、マァナが膝をついた。
まだ未熟なシェスファを庇う動きをしていた為に、他の面々よりも疲労が蓄積し、身体に想像以上の負荷がかかっていたのだ。
「マァナさん!」
気がついた赤雪が僅かでも位置をずらせないかと懸命に走る。
だがそれも及ばず無情に縦に振り下ろされる剣。


加速したそれがマァナを分断させようとしたその僅か前だ。
速やかな赤いWBのマーキングからサテライトカノンの照準。
降り注ぐ光がその刃を命中する寸前に砕けさせた。
「間に合ったな。」
強気な声が奥から響く。
少しシニカルでありながら陽気な声。
「元々レンジャーもやってたからな。DFごとき雑作はないさ。」
その声にマァナが速やかに反応した。
瞳の先に映るのは細身のニューマンの姿。
「八代さん!?」
八代の重傷は完治の見込みすら分からないものではなかったのか?
それがこうして、全快し勇姿を見せている。
「心配をかけたな。」
不適な表情は歴戦の戦士のそれだ。
マァナの良く知る心ごと任せられる絶対のパートナー。その八代がここにいる。
眼を疑うが、紛れも無い事実だった。
マァナの眼に薄く涙が浮かぶ。
「運命に抗うってヤツが放っておかなかったみたいでな。」
不適な笑み、そして堂々たる態度。
まさかの助っ人が再びライフルを構えなおす。
また奥から、すうっと浮き出る様にウォーリックが姿を現した。
俯き加減だが、目には闘志を宿らせて。
その姿は生まれ変わったかのようにも見える。
「兄様!」
真っ先にシェスが駆け寄った。自分に注がれるそれぞれの視線に頷く事でウォーリックは答え、最後にハルを見て眼を伏せた。
その直後に彼らの記憶と認識は全てが変わった。
‘絶望を集約させようとしたDFがアークスを旧マザーシップにとりこんだ’と。
この場で真の意味を理解したのはハルだけだっただろう。
今までのウォーリックは存在しない。
共に歩んで来た彼だが、もはやその彼でもない。
同じ人物、おなじ来歴、同じ力、同じ魂。
だが決定的に違う部分がある。
単なる時間移動でなく空間を越える事象の感覚を理解し体感しうる人物は彼女だけだったからだ。
「帰還だと……ましてや何故僕がシオンと同化出来ていない!?」
【道化師】の声に、今まであれほど絶対者として漲らせていた自信が深奥から澱みが湧く。
DFに浸食されたウォーリックを倒した後、八代の隠れ家を耳打ちされたウォーリックは僅かに時間を跳躍し、倒される前の八代とともにクローン体を排斥したのだった。
‘浸食を受けるはずだったウォーリック’はそれにより存在そのものが無くなり、跳躍をせずともここで消滅した肉体はここに在ったものとなった。
そして八代もまた無傷の八代として居合わせる事が出来たのだ。
鋭い声でウォーリックは言った。

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「お前には理解出来ない。」
重く、奥底から響く声だった。
それに反応した動揺の声がDFから轟く。絶対的な否定。彼にとってはあってはならない言葉だった。
「全知の僕が理解不能だと!?」
「ああ。」
ウォーリックは力強く言葉の剣を抜いた。
それは自分の自分へ関わる全ての友の想いと、今まで、これから関わるべき人々……そしてもう一人の自分……全てのもの達への強い誓いであり、宣言だった。
「人を捨て成るDFにわかるものか! 人の心、願い! 未来を信じる想いが!」
もう一人の自分が弾末の際に発した言葉。自分以外の誰にも聞こえない願い。
「……皆と……共に克ってくれ。」と消え行きながらも託された想いを再び心に甦らせていた。
拳を握りしめ胸にあて、深奥から溢れる力を込めて言い放った。
「たとえ困難であろうと、それを嘲るものがいようと、僕は……僕たちは求め、戦う!」
この場にいるアークス全ての眼差しに宿る炎がそれぞれの瞳の色で揺らめき輝く。
ウォーリックの脳裏にも様々な光景が浮かんでは消える。
自らを肯定するため、迷いを切り捨てる様に更に続けた。
「何よりも偽りに固められたお前に……僕達が負ける事など無い!」
これまでの経緯でウォーリックは気付いていた。
ルーサーの残滓の集合体、それが新たなルーサーの器を得る為に過去のルーサーを甦らせる、もしくは新たなルーサーの器を形成する為に、いずれにしてもシオンの縁者を欲した理由はそこにあると。
今ここにいるウォーリックと、DFになりかけたウォーリック二人の思考と体験が答を導き出した。
負の因子にまみれるか、限りない絶望の怨嗟から生まれる器。
彼はそれを必要としていたのだ。
「先生、これを。」
今こそ果たさねばと、小さな掌から周紀が恭しく、二つのパックをウォーリックに渡した。
ハルの要請で回収してきた、それ……ウォーリック用としてにリミッターの限界を高めにチューニングされた二つの生体武器だった。
無機質な自動音声がパックから発せられた。
「生体認証完了……アークス・ウォーリックと認証。使用を許可。バイオアームド、ロック解除。」
黄色の溶液に浸かった状態から二本の湾曲したダガーが現れる。
「出力向上の代償に、現時点では負荷が大きいと。ラボからの注意がありました。」
「ありがとう、承知した。……それでも充分な仕事ぶりだ。」


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アイテムラボ担当のひげ面を思い浮かべ苦笑しつつ、ウォーリックが再び【道化師】へ向き直る。
「さて、そろそろ反撃の時間……かな?」
赤雪が元気に肩を回す。
自分自身を再起動させる様な動作で周囲を見回し鼓舞していく。
「ん〜、何か腑に落ちないとこもありますけど、今は目の前の敵、ですね!」
「明鏡止水……ただ闇のみを断つ。」
「ウヒョヒョヒョ! 頑張りますよぉ!」
なしごれんの一同も各々が自分らしさを取り戻していた。
「私ももう……100%よ。」
「さて、サポートは任せな。」
生気に満ち、緑の宝石の輝きを放つマァナの瞳。
それを後押しする様に、落ち着きマシンガンを構える八代。
交差する視線には互いを思う絆がはっきりと見える。
「さぁ、踊ろうじぇい!」
眼前のDFへの皮肉も込め、誰よりも陽気に、そして自由にハルが叫んだ。
一斉に駆け出してゆく姿を認め、八代は急速に距離を詰めマシンガンの速射を叩き込んで行く。
回避、攻撃、全てが今までの彼等から数段上昇している。
士気が明らかに違うのだ。
ただそこに居る、それだけで想いは乗算され、疲労を越えた力が生み出される。
「式にゴミが……!!」
開く時計へ向けて八代が再びライフルへ持ち替え、WBを撃ち込む。
二羽の白いハヤブサの如く周紀と晩白柚が真っ先に飛びかかる。
見えない刀身と細身の刀身が突き刺さり閃く、既に準備を終えたハルとさどじまから間髪入れず放たれた闇の掌、極寒の冷気が時計盤を包む。
シェスファは集中し中心に向けラストネメシスを放ち文字通りの一矢を報いる。

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それと同時にシンフォニックドライブで飛び込み、蹴りを放ったウォーリックはナックルに持ち替え、禍々しいそれでバックハンドスマッシュを二連続で叩き込んだ。
ひびが入り、そして割れ行く時計盤。
散って行く破片に映ったのはマァナと赤雪。
割れた時計盤の奥に向かいオーバーエンドとグラップルチャージが鮮やかに決まる。
「あまり煩わせるな、面倒だ。」
この期に及んでも、絶対者としての自信を取り戻そうと【道化師】が高速攻撃を放つ。
瞬時のテレポートを繰り返し、フィールド状に剣を突き刺した。
だが、既に動きに慣れた面々に罠がかかる筈も無く、次々と一同が交わしてゆく。

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ウォーリックは再びダガーに持ち替え、ワープする【道化師】を追尾してゆく。
「深淵と崩壊の先に、全知へ至る道がある!」
苛立ちを抑えられない【道化師】は即死に至る攻撃の準備に移る。
「我はルーサーでありクラウン、全知そのものだ! 」
時が止まった……筈だが時を止める剣が周囲を囲んだ瞬間一同の口に不敵な笑みが浮かんでいた。
予測し、対応済みとばかりにそれぞれが動き、破滅の刃を砕いてゆく。
「何故だ! 何故に僕の攻撃がことごとく……! 」
「だから言ったじゃん……アークス舐めんなって!」
ハルの声は高らかに、振りかざしたロッドが周囲を鼓舞し攻撃力を強化していく。
接近し潜航する【道化師】の宝石目掛けダグラスとブラウリヒトが豪打を叩き込み対称位置のそれを砕く。
「もう勝てるかも!」
シェスファが僅かに心に隙を見せた瞬間だった。
「全知は僕だ!僕の導き出した解に間違いはない!」
放たれた衝撃はシェスファを巻き込んで吹き飛ばした。
無防備となった彼女を巻き込まんと続けざまにブラックホールが発生する。
シェスファを救いに走ろうとしたウォーリック、ブラウリヒト、ハル、マァナがその磁場に吸い込まれてゆく。
「無意味だ無駄だ愚かしい、滅びろ消えろ宇宙のゴミが!」
爆発とともに闇のエネルギーが炸裂し、一同を吹き飛ばした。
「……」
意識を取り戻したシェスファは自分の身体に刻まれたダメージが少ない事に気付くとともに、4人が壁となり守ろうとした事を理解した。
自分が未熟で、油断したばかりに……皆に迷惑をかけてばかりで、足手まといで……
「泣くな、シェス。」
それを見たウォーリックがダメージを抱えながらも立ち上がった。
落ち着き、優しげな瞳。
彼女をいつも見守ってくれたその緋色だ。
「シェスちゃんは笑ってなきゃ……ここで泣いたらハルさん怒っちゃうぞ。」
「勝って証明すれば良い。それで充分だ、シェス。」
「全く……手がかかる妹みたいで可愛いわ……元気出そうね。」
自分が辿り着かなければならない場所。
それをそれぞれが示してくれる。
兄様の所に行ける!それだけでアークスとなりラグズにやって来た。
その時の自分ではない、もう一人のアークスであり、従兄にとって足手まといではなく肩を並べられる様になりたい。今ここに居る人達と同じ様になりたい。
そう心が告げる。
「僕の思うがままに、解を求めん」
それを邪魔するかのよう【道化師】は攻撃を放つ。
ミラージュエスケープで跳躍したさどじまが回復させ、速やかな反応で攻撃をかわす。
「負けないよ、絶対。絶対は無いって言っても絶対勝つんだから!」
精一杯のシェスファの気持ち。
それは全員に伝わりそれぞれの心を揺さぶった。
「あー、あたしも妹欲しいなぁ! もう!」
赤雪がシェスファにウインクをする。
「シェスちゃんはウォーさんがくれなさそうね♪」
くすり、とマァナが微笑む。
「シェスちゃん、頑張ろう! 自分もサポートするから!」
「無理ならわっちの背中も貸すから、行くよ。」
周紀と晩白柚もさながら姉の様に声をかける。
「馴れ合いの戯れ言を……アークス風情が。」
【道化師】が怒りと嫌悪を込めて言う。
だがその言葉をウォーリックが遮った。
「だから、負けないのさ。」
ざわり、と頭髪が揺れる様にも見えた。
「絆を……想いの連鎖を……憎悪、怒り、絶望でしか紡げないDFには!」
「ほざけ! 底は知れている!」
突き上げる剣と雷鳴を一同がかわすと、ダグラスが先陣をきる。
豪腕による連打は鈍い音を立てながら【道化師】を気圧してゆく。

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再びシンフォニックドライブからレイジングワルツでくちばしを狙い、ファセットフォリアに繋ぐウォーリック。
赤雪がカイザーライズでフォローを入れた瞬間にはそのくちばしが砕け散った。
「未知の事象だと!?」
コアをさらけ出した瞬間にはもう八代の照準が鮮血色のマーキングを刻ませていた。
「いけ!」
八代の声が響く前、マァナは誰よりも早くそれに反応し、急速な接敵から連打しオーバーエンドに繋ぐ。
ハルのイル・メギドはコアをもぎ取るようにも見える動きで猛襲し、DFの存在を削ってゆく。
その時にはそれぞれが持つ最強の攻撃を力の限り叩き込む姿が映っていた。
【道化師】は己が朽ちる事を自覚しながら薄れる意識に流れるものを感じていた。
全知……それは人の矛盾や感情……曖昧なものすら受け入れる事も必要としていたのか……
その愚かしさすら愛おしく思える程に……そうか……シオン……君の……僕は何処までも真の道化か……
光が満ち、【道化師】はその姿を失った。

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ラグズに帰還したウォーリック達を待ち受けていたのはTry-Gearの解体の宣告だった。
DF撃退を差し引いても規定違反をそのままにして置く訳にはいかない。
そのペナルティとしてチームを解体せよとの命令だった。

ウォーリックは背後に立つカテドラルスーツの男から、告げられる言葉が在った。
「貴君の戦果……我々は評価する。今後も我らの期待を裏切らぬよう……」
サンプルそのものが消失した今、彼が処罰される理由がが無くなったのだ。
ビギナーの帰投もあくまで報告をした事実だけに全てが書き換わっていた。
事象そのものに変動が起きている……その現れだった。

「ただいま! お兄ちゃん。」
「お帰り、赤雪。」
赤雪は元気良く帰宅した。何日ぶりになるだろう。
そして、ふと甘えるよう細い兄の身体に抱きついた。
「どうかしたのかい? 」
「ううん。やっぱり家族っていいね。」
甘えん坊で少しわがままな少女と、友人の姿を思い出しながら彼女は言った。
今日ぐらいは甘えん坊の妹でいようかな、そんな風にも思える。
「お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、みんな大好きだよ。」
「突然だね。」
妹の素直な愛情を受け止めながら優しい眼をした兄が言う。
「では、そんな可愛い妹の為に、トマトとチーズ満載のパニーニでも作ろうか。」
大好物の提案に爛々と輝く赤雪の瞳。
戦士の彼女のそれとは違う、年相応の少女のそれだった。
「出来上がるまで、カフェオレでも飲んで待っててくれるかな?」
「うん!」
今この時だけはアークスではなくただの妹でいよう。
幸せな時間が長く続く様に。
きっと今夜はあの夢は見ないだろう、もしかしたらこれからも。


「ハルちん、これからどうするのさ?」
チームルームのバーカウンターから晩白柚が尋ねる。
不満、というのではなく確認の様子だ。
「ん〜、しばらくはのんびりしてくかな〜。」
「わっちはしばらく自由にしようかな。」
風の向くまま、そのような気質の彼女らしい答えだった。
「それもいいんじゃない?」
「自分は先生に着いてく……だから。」
周紀が生真面目そうにハルに申し訳ないとばかりに言った。
「いいよ、みんなが好きなようにすればいいから。」
ハルは何も気にしない様子で口笛を口ずさむ。
どこかの世界のとても陽気で、楽しくなるメロディだ。
「ハルさんたちの持ってる絆ってやつはそんなヤワなもんじゃないっしょ。もちろんウォーリックさんもね。」
二人にウィンクしながらハルは言った。
今日も明日も、大切なものは変わらない。
今回の騒動で起きた事は、自分自身の揺るぎない根を再確認しただけだ。
ハルの口笛は続く。
二人がチームルームから姿を消してからもシートに横たわるハルからメロディは消えなかった。



差し込む夕日がベッドに横たわるマァナと八代を照らす。
軽いまどろみに身を任せ午睡をしていた二人はそれに気付き微笑み合った。

1836.png

「長い休暇を取ろう。」
そう八代が提案して来た時、マァナは驚いた。
常に前線に身を置き、それを追う様にしてきた事があたりまえにもなっていた二人の時間を、少し変える提案。
驚きついでにマァナは少し意地悪な気持ちを愛情込めて八代に投げる。
「ねぇ、どうしてあいつらの言いなりになったの? 貴方ならどんな要求だってはね除ける事が出来た筈でしょ? 」
眉間にしわを寄せて、八代はポソリと呟く。
「……」
「聞こえない。」
マァナが問い返す。
「……記憶を……だよ。」
「え?」
「俺に出会う以前の、マァナの……それまでの人生全て……それをマァナに取り戻させたかった……」
「それが条件だったの?」
マァナはこの男の事が愛おしくてたまらない気持ちに溢れた。
自分の過去……失った長い時間の事……気にならない訳ではない。
だが今、自分が得ている満たされた想いは誰より八代からもたらされたもの。
「馬鹿ね……」
「ああ、馬鹿だな……」
僅かに気恥ずかしそうな表情で、八代は答えた。
「本当に馬鹿だな。」
「馬鹿よ……」
「ああ。」
「私は過去なんかより、貴方と出会ってからの時間、これからの時間があればそれでいいの……」
八代の頬に手を当て向き直らせ、見つめ合う。
優しく、とても優しい声でマァナが伝える。
心の奥に染み入るような慈愛がこもっていた。
「忘れないでね。」
「ああ……」
頬に当たるマァナの手に掌を重ね、八代がマァナを抱きしめた。
任務以外で普段積極的に出ない八代の突然の行動にマァナが顔を赤らめる。
「マァナ……」
無言でマァナはただ重なる鼓動だけを聞いた。
高鳴り激しくも、熱く優しい鼓動。
「一生を俺にくれないか。」
「え?」
「俺の一生も、君のものにして欲しい。」
その意味に気付いたマァナは頷くと温もりと喜びに満ちた涙を流した。
今まで流した涙で、最も嬉しく優しい涙。
「嬉しい……ありがとう……」
それ以上の言葉は一切いらなかった。
飾る事も無く、素直な想いだけを互いに受け入れれば良い。
二人の影が再び重なった。


「どうするんだ、ウォーリック。」
ブラウリヒトが腕組みをする。
戻るべきチームも失い、いちアークスとして生きるのか。
私室のソファで紅茶を飲むウォーリックは特に気にするでもなかった。
シェスファが楽しげにお茶菓子も冷蔵庫から出し、自らの紅茶にミルクを注ぐ。
「動きだすだけだ、僕なりに。」
ソファから立ち上がり、戸棚に行くと古めかしい杯を手に取った。
「進めば道は自ずと開く。そういうものさ。」

これより数日後GRAILという一つのチームが生まれ、幾人かのアークスがそこに集った。
事実はそれだけの事であったが、アークスのミッションファイルに刻まれた【道化師】の争乱という事件にはファイルに収まりきれぬ想いや絆が在った。
それを知るものは少なく、誰からも知らされるものでは無かった。
関わったもの達がそれぞれの胸にそれぞれの想いで刻んだ事が残り、それぞれの変化に繋がった。
今はそれだけで良いのだ。
切り開くは己、そして互いに絆を結んだ仲間達がいる。ただ、それだけで。

偽りの道化師 - 完 -
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後書き【偽りの道化師】

偽りの道化師【19】

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マァナ

小説完結お疲れ様でしたー!結婚式の前に間に合わせるなんてすごい頑張ったねー!
戦闘シーンは迫力があって、みんなの動きがとてもかっこよかったですw
八代さん登場シーンも////
後エピローグ、事前に顔から火が出るかもって言われてたけど、本当にそうなったっ!w
あのSSからこんな素敵なエピローグ書いていただけて嬉しかったです、ありがとうございました!

2014年08月24日 19:01

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ウォーリック

Re: タイトルなし

> マァナさん
完結へのモチベーションはマァナさんたちの結婚式が念頭にあったから、と言うのは過言ではありませんでした。
マァナさんと八代さんがここ迄ストーリーに深く関わり、色を付けてくれた事にも感謝です。

記憶の話は、構想当時は最終決戦か、八代さん救出でと考えていたのをずらしていたらプロポーズにすんなり行き着いたと言う……これもまた計算を超えるキャラクターの息吹なんだなぁと思ってます。

2014年08月24日 19:17

comment avater

赤雪

執筆おつかれさまです!そして堂々の完結おめでとー!!
最終戦とエピローグの挿絵SS撮影会やりたいね~

それぞれの思いの強さと絆で強敵を打ち破る王道展開な大団円!
SF設定の部分は公式設定とのすり合わせとか色々難しい要素が多い中で丁寧に纏めてあっていい感じ!

チーム解体等、PSO2内での出来事もしっかり消化してるとこは流石……
大変な状況の中、最後まで書ききった誠意に脱帽です!本当におつかれさまでした!!

2014年08月25日 11:47

comment avater

ウォーリック

Re: タイトルなし

> 赤雪さん
やはり宣言した限り、結婚式とEP3前に完結させなければ、と思いながら頑張りました。
何度ももう書けないんじゃないか、そんな精神状態を皆が支えてくれての完結。
不思議なシンクロニシティと、書き上がり改めて思う、それぞれの絆が根本にあるなぁと言う気持ちです。
またSS追加は後日やっていき、完成度は高めたいなぁと思いますので、よろしくお願いします。

2014年08月25日 12:11

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