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「兄様! 兄様!」
拘束を解かれたシェスファがウォーリックに駆け寄り抱きついた。
「シェス……」
それ以降の言葉をウォーリックは紡げなかった。
涙を浮かべながら上げたシェスファの笑顔が聞きたかった全てを語っていたからだ。
涙を拭うのも忘れたシェスファが息を呑んだ後声を上げた。
「兄様! 八代さんが……撃たれて……何が何だか分からない……でもあの黒い八代さんが八代さんを撃って……」
「さっきの侵蝕クローンが言っていた事はそれか。」
冷静なブラウリヒトの声にウォーリックが頷く。
「シェス、監禁されていた場所は分かるか?」
「気を失ってて……」
狼狽するだけのシェスファにウォーリック落ち着くよう頭を撫でる。
それだけでも効果はあり、シェスファの呼吸が落ち着いてきた。
「どうしたもんかのう。」
顎に手を当てつつ、ビギナーが髭を指先で遊ぶ。
彼なりに神妙な表情で思案している様子だ。

写真 1

「へっへ〜ん!」
伸ばした右手の中指と人差し指を付けて、ハルがシュッと振ってアピールした。
ウォーリックとシェスファの間に胸を張ったハルが割って入った形だ。
「ハルさん……残念な事にのう……」
「何が!? 」
ビギナーが視線をハルの胸元へ送り、漏らしたため息にハルが噛み付く。
ウォーリックが苦笑しながら、ハルの意図を察して提案した。

「ハルさん、八代さんのフォトンを追えるか? 恐らく弱まってるから掴みにくいとは思う。」
「面識は殆ど無いけど、逆転の発想! 意識を衰弱するフォトンに絞ればいいのだ! ちょおっと静かにしてくれマイカぁ。」
呼吸を正しながら半眼に目を細める。
テクニックを使う様子でもない。
無風だがハルの意識を感じてか、前髪が微かに揺れる。
周囲のフォトンが共振し、ハルの肌の隅々に波が押し寄せては返すような感覚を伝える。
赤雪のようなフォトンの感応性に長けたアークスとは違うその力。

写真 3

「方角だけなら……南西に……弱っていくフォトンが……ん……うぅ……zzz」
「ハルさん!」
突如睡魔に教われ倒れかけた所を、ウォーリックが手を差し伸べ支えた。
細いが筋肉質の腕は、小柄なハルを支えるくらいならば苦労をしない。
ビギナーが気遣う気配で優しい声音で言った。
「ハルさん、ウォーさんを捜す時にもやってたしねぇ、いつもの眠り姫だのう。逆によくここまで持ったもんだわ。」

ハルのこの力はアークスとしての所以のものではない。
ハル曰く単なるフィーリング……から生み出される超感覚、それは時に凄まじい効果を発揮するが、負荷の限界を本能で認識している為、臨界点では強制的に睡眠というストッパーが働くようになって居るのだ。
その力の理由を知るものは極めて少ない。
殆どのものが彼女のその直感に優れたハルの力と認識しているだけだ。

ハルを抱え上げたウォーリックを見て、シェスファが目を爛々とさせる。
「いいな、いいな♪ 」
叱りつける程ではないがブラウリヒトが注意を促した、
シェスファがぷうっと頬を膨らませる。
「シェス、控えておけ。……ウォーリック、体調とフォトンのコントロールは大丈夫なのか?」
「ああ、随分楽になった……普段通りとまで行かなくとも7〜8割には戻っている感じだ。」
「何かダーカーやクローンに阻害要因があったのか……」
「分からない。身体が楽になっても皆目見当がつかないというのは……」
自分にはどうにもならない事象がある。その歯痒さに言葉を切ったが、今ここにいるのは自分だけではない。
だが歩みを止めたとして何か変わるものではない。
一同は八代を捜す為に深奥部から足を進めた。

赤雪とマァナはダグラス、さどじまと合流し採掘場跡を進む。
砂埃が舞い、赤雪の目にその粒が入る。
「ん〜!」
不満を漏らす様に赤雪が目をこする。
一瞬遮断された感覚の代わりに働いた感覚。フォトンを読み取る知覚力が赤雪に一つの事象を告げた。
「ウォリさん!?」
見知ったフォトンの流れ。
時に穏やかで時に苛烈にもなる、凝縮された塊のようなフォトン。
眠る火山のよう、そのフォトンがこの周囲にいる事がその神経に響いた。
僅かな違和感が無かったとは言い切れない。だが確実に彼は自分たちが捉えると事が出来る距離にいる。その確信を口にした。
「居るの? この近くに?」
マァナの問いへコクリと頷く。
砂を除くと、赤雪は視線を遠く、より遠くへ送ろうとつとめた。そして僅かに動く小さな影を認める。
「塾長! あっち!」
真っすぐ伸ばされた赤雪の指先へとダグラスも視線を送った。
鍛えられた戦士の目にも動く姿が映り同意する。
「うむ、リーダー。確かにあれは……」
「やっとまずはご一行を、ですかね。」
さどじまの言葉は、まだ残されている事柄を語らずとも示していた。
「うん、合流して八代さんを捜さなきゃ。行こう!」

「ウォーリィーさぁーん」
声を振り絞りながら近付く小柄な影を認め、ウォーリックが少なからずとも驚いた。
「赤雪さん!? 何故?」
だがその直後にマァナの姿を見る事で全てを理解した。
「成る程。」
マァナへ視線を送り、言葉を切りながら深刻な声を響かせる。
「八代さんは生きている。だが衰弱し始めている。方向は南西で間違いないらしい。何か心当たりは?」
一つ一つが確認する言葉として、マァナに届くように話す。
マァナの記憶、八代と共に過ごした記憶、一枚一枚の写真を捜すよう想いを巡らせる。
リリーパ、採掘場跡、採掘基地、防衛戦……ハッとしてマァナが顔を上げた。
「私たちの最初の防衛戦……その駐屯地……!」
南西を直視し確信に満ちた頷きでマァナは言った。
「隠れ家に使えそうだって……私はそれから使う機会は無かったけど、そんな風に一度だけ……」
一同の視線が交わされた。

およそ快適とは言い辛いが、機能性だけは最低限整えられた駐屯基地。
ここまで来ればシェスの僅かな記憶だけでも八代の居場所は捜せるだろう。
監禁された個室のドアに見覚えを感じたシェスが指をさす。
「兄様! ここ!」
ブラウリヒト、ビギナー、ダグラスの三名がロックされた扉に体当たりをして突き破った。
部屋の奥では、壁を背にぐったりと気を失った八代の姿があった。
「八代さん……」
ゆっくりと力なくマァナが足を進めた。
息をする事を忘れたその時間は、彼女が今まで苦しんだ時間を表すかの様に長く……重く、そして慎重なものだった。膝を落とし、白い指を八代の頬に当てる。
僅かな温もり……それを感じた瞬間、マァナの瞳から大粒の涙が溢れ出した。
つう、と一筋ながれるそれは喜びと安堵……今この時だけはその想いで溢れていた。
間に合った。
信じていたように彼は生きている。
「来たよ、私……ゴメンね……でも……良かった。」
慟哭に締められた声は辿々しく、そして少女の様な素直さでもあり、彼女の胸の想い全てがこもっていた。
つられたように赤雪もグスン、とすすり泣きしそうになるのを堪えていた。
「マスター! 大変です!」
更に脇にある部屋を調べていたさどじまが声を張り上げた。
「身元、所属不明の死体を発見しました! 死因も外傷、毒物などの検出も出来ず!」
データーベース該当なし、及び医療キットでも死因の検査反応が無い。
全員がその場へ向かうとマァナが呟いた。
「名無し……」
「心当たりが?」
ウォーリックの問いにマァナは答える。
「名無しのフォトナー、そう言った男に瓜二つ……でもここに居る筈は……」

「お帰りになられたのですね! あなた様をお待ちしておりました……我ら一同、再びフォトナーの夢を!」
名無しは歓喜に満ちた表情で目の前のニューマンをたたえる声を上げた。
「これでもうアークス如きに……」
「ご苦労、実に大儀だった。」
「そのお言葉、有り余る栄誉!」
「ゆっくり休むと良い」
ニューマンが穏やかな皮肉という矛盾した表情ををたたえると、名無しは声も出さず、喜びに包まれたまま絶命した。
「滑稽だ、滑稽だね。模造品が模造品を生み出し、フォトナーの夢を見る……皮肉でもある。だがそれにより、また僕はシオンのもとへ回帰し、全てを識る道を得られる。しかもシオンの縁者の力によって……楽しみはこれからだ。」
悪を越えた欲望に満ちた声、それが響き終わる瞬間はもうその姿がこの暗い部屋から消えていた。
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補足と追記【6】

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ハル

再開おめめ♪
遂にハルさん寝落ちの真相が語られましたね…
大きな布石の回収となった回でしたな(´・ω・`)

2014年08月03日 06:17

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赤雪

祝更新再開!&執筆おつかれさま~!

キャラクター毎に固有スキル的なモノがあるのが面白い!
まさか寝落ちの理由をソコにもってくるとはw

これからも続き楽しみにしてます!!

2014年08月03日 10:58

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ウォーリック

Re: タイトルなし

> ハルさん
ぢまだ寝落ちの真相は全てではなく、今回はここでとどめましたw
途中から寝落ちはたとえ身内ネタだろうと面白く使ってやると思ってましたんで

2014年08月03日 13:01

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ウォーリック

Re: タイトルなし

> 赤雪さん。
あらためて、先ほどのハルさん含め感謝です。
それぞれキャラ設定を頂いてるので、やはりそこを活かしつつ無理にしないと言う基準を設けながら頑張っておりまする。
また、協力よろしくね!

2014年08月03日 13:05

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マァナ

再開まってたよー、執筆おつかれさまっ!そっか、ハルさんが昨日寝落ちしてたのもそういう理由が(ぇ 八代さんと会えた場面はじーんとしました。次も楽しみにしてるね><b

2014年08月03日 13:45

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ウォーリック

Re: タイトルなし

> 書き上がった時間は、マァナさんに一番最初に読んで貰えるだろうと思い、インしたのよね。
マァナさんの行動の積み重ねが届く場面なんで、書いてる方も感極まりましたw

2014年08月03日 19:49

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マァナ

たしかINしてくれた時間って夜中で、うちも直前まで寝てたのに、偶然目が覚めて見れたのよねwこの小説は色々なとこでそういう不思議な現象があってスゴイ!リンクしてたりとかねー

2014年08月04日 04:07

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ウォーリック

Re: タイトルなし

> こちらはマァナさん起きてるんじゃないかなぁ……と何と無く思い、起きてたら出来たよ!って報告したかったから助かりましたw
そう考えたら、現実も結構ドラマティックです。

2014年08月04日 14:58

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