GRAILは解散した。
その事をメンバー全員が知ったのはウォーリックがナベリウスでの戦いを終えた後だった。
ウォーリックは生きて戻るつもりだが、万が一がある。
解散しメンバーに自由を与えておけば再建も可能だ。
その心構え、真たる想いはおそらくブラウリヒトは状況を理解するだろう。
八代も然り。シェスファは……おそらくてはかかかるがブラウリヒトが何らか対処をする。
やるだけの事はいまやり終え、今はラピスと任務に集中する。
打開策はまだ見えない。
「ウォーリックさんはどうお考えです? この状況……」
ラピスが戦闘で乱れた髪を軽く整えつつ訊ねた。
「私の考え、というか推測をきいて頂けますか」
無言でウォーリックが頷く。
涼やかな声音だがその内容は物騒そのもの。
「DF【巨躯】がナベリウスから飛来した際に発生した極大的エネルギー……仮に負の力と呼びましょう。その負の力により今までのダーカーが変質した。【巨躯】の影響だけでナベリウスの原生種が変わった様に、負の力の影響はダーカーすら変えたのでは無いでしょうか…… 」
ウォーリックが見えてもラピスの分析は冷静且つ的確なものだった。
そして眼を伏せつつ頷く。
「合点の行く解釈だ……」


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既にラピスに拳を癒してもらったとはいえこのまま、二人で何処まで行けるものか。
分からぬ恐れに立ち向かう。
正直、ウォーリックの胸には自分たちは捨て駒である可能性をぬぐい去りきれない。
先ほどの暗号電文の後、返信が無い。
長老会の検討があったとしても今回の依頼方法、状況、いずれも即断即決を要する筈。
大樹そのものが腐ったか……とウォーリックは思う。
ルーサーという内部に在った強大な脅威が消え、敵対しない関係である六芒均衡は力の意味以外での脅威がない。
聖なる大樹とフォトンの教義。それ故にダーカー根絶を掲げる教団。
世界樹であり、セフィロトとして機能するそれは人と聖なる魂との合議で在ると言う。
ある意味ではフォトナーと変わらないとウォーリックは皮肉な笑みを浮かべる事がある。
まさに今はそういう瞬間だった。
だが戦う、それがウォーリックにとっての教義も同じ事。
闇を憎み、絶つ。
教団が動かぬなら僕がやる。
揺るがぬ意思が更に不動のものとなりギラリと光らせた。
そして伴う青いワルキューレはその気配を感じながらも微笑みを絶やす事は無かった。

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「先生、お話があります。」
神妙な面持ちでルームに訪れたチームメンバーの周紀を、ウォーリックはソファへ座らせ手際良くコーヒーを煎れた。
その空気から、深刻な話の様子だ。
幸い、話を混ぜ返しそうなシェスファはブラウリヒトを引きずって買い物に出かけている。
その時間を利用して読書でも、と考えていた矢先の来客。
あえて語らず、周紀の言葉を待つ。むしろ彼女はその時間を長い時に感じたかも知れない。
「自分はチームから脱退します。」
その言葉にカップを滑らせそうになる自分を律しながら続く言葉を聞く事に努める。
「先生は自分の一族の家宝についてご存知ですよね。」

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何度も聞いた事のある悲願。
周紀がアークスである理由の一つ。
奪われた家宝を取り戻し、その守護の一族としての責務を果たす事。
宇宙を駆け巡るアークスであればそれに出会う機会を得る事が出来る。
「それについて大きな手がかりを得ました。アークスとしての活動を一旦停止しても、自分はやらなければならないのです。」
ウォーリックは静かに言葉を聞きながらも、彼女を右腕としての存在と当たり前に感じていた事を自覚していた以上に思い知らされた。
いつからかウォーリックを先生と呼び慕い、常に影の様に補佐し、戦いの際には先陣を切ってゆく周紀は仲間として無くてはならない存在だった。
だがウォーリックは声を抑え穏やかに口を開き言葉を紡ぐ。
「分かった。周紀さん、君の思う様にすればいい。それは君が君である為にやらなければならない事……そうだね。」
「先生、本当に済みません……」
唇を噛み締める周紀の想いは充分に伝わってくる。
ならば彼女を送り出すのもウォーリックのやるべき事。
「気にしなくていい。大切なものは変わらない。家宝を取り戻せるよう、僕も心から願うよ。」 記事を読む →

崩れ落ちるファルス・アンゲル。
だがそれは真の姿に変わる序章でしかなかった。
「DF【敗者】!?」
更に巨大で、莫大なエネルギーをもつ存在へシェスファが恐れをもって名を呼んだ。
「貴様らに踊らされた僕はさしずめ【道化師】(クラウン)か……」
自嘲を込めたDFの声が響く。
「【敗者】であろうと【道化師】であろうとも僕はDF……この力とくと味わえ!」
振り下ろされた巨大な刃が盤上の床を叩きつけ、一同を吹き飛ばす。
外見こそ同じだが【敗者】にはない底知れぬ何かがこのDFにはある。
それは対峙しているこのアークス一同が感じる戦慄だった。
「ははは! アークス風情が!」
連息で振り下ろされる剣の衝撃はその範囲も広く、逃げるだけでも精一杯……巻き込まれればその威力で意識すらとばされかねない。
余裕に満ちた嘲笑がフィールドに響く。
「悔しいけど【敗者】以上?……対抗策は少ない……か」
苦々しく赤雪が呟くいた。
叩き付け、薙ぎ払う。
単なる物理攻撃だけで歴戦の彼らが追いつめられて行く。
単純な事だが治癒と致傷の幅に差がありすぎるのだ。
癒える前に傷を負わせ、深さが手遅れになるよう、それを楽しむかの如く【道化師】の刃が弄ぶ。
疲れを消せぬうち、マァナが膝をついた。
まだ未熟なシェスファを庇う動きをしていた為に、他の面々よりも疲労が蓄積し、身体に想像以上の負荷がかかっていたのだ。
「マァナさん!」
気がついた赤雪が僅かでも位置をずらせないかと懸命に走る。
だがそれも及ばず無情に縦に振り下ろされる剣。 記事を読む →

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採掘場跡の深奥。
ドーム状の枠から続く作業用クレーンのワイヤーに吊り下げられた拘束状態のシェスファが気を失った様子でぐったりとしている。
そしてクローン八代の姿が見えた。
だがそこにもう一つの影がある。
闇色のパニッシュジャケットに身を包んだウォーリックだ。
それを認めたルーサーは歓喜した。
「器自ら跳んできたか……ならば……」
ふわりと闇の羽を送るとともに自らの意識をウォーリックへと同化させDFとして取り込み始める。
「……もう前座は不要だ。」


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クローン八代を下がらせ、召還するつもりであった眷属を引き下がらせる。
意識を僅かに集中させるだけで、クローン八代の身体が糸の切れた人形の様に倒れた。
名無しを消去したためコントロールする信号が途切れたのだ。
「さぁ、今は名を呼んでやろうアークス……いやウォーリック。」
「一体!? クローンではない……のか?」
動揺を隠せないウォーリックへルーサーと化しつつある肉体が歩み寄る。

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「感謝しておこう。成熟した器を丁重に運んでくれた事をね。」
ルーサーの掌から舞う黒い羽に包まれるとともに、ウォーリックのパニッシュジャケットは白から闇に染められていった。
「はははっ! 愚かなるアークスよ! 僕の新たな器になれる事を感謝するといい! 僕はシオンの縁者となりDFでもある、全てを識るものとなるのだ!」
高笑いするルーサーの声に抵抗するようにウォーリックが声を振り絞った。
叫ぶ訳ではない。力を込めながら願う言葉だった。
「僕を…撃て! 今しかない……シオンがそうしたように! 完全なる支配の前にだ。」
「そんな!?」
「出来ないよ!」
動揺するマァナと赤雪が無意識に一歩後退した。
殺せというのか。困惑で一同が静止しする。
語ればルーサーに悟られる。必要以上に考える事もまたシンクロされれば思考を読まれる可能性もある。
「いや、やるよ。」
その中でたった一人だけ、ハルが一歩踏み出した。
「ハルさんには分かるよ。ウォーリックさんがあの目をしてる限り、信じる。」
ゆっくりロッドの後部を回し、テクニックのチャージをする。
シェスファがすがるようにハルを止めようとするが、ハルの張り詰めた空気に気圧され動けなくなった。
「……約束したはずだ。」
かすれたウォーリックの声は苦痛を耐えるだけでは無く、精神の支配に抗うそれだった。
「頼む……ハルさん……僕を撃ち、跳ばすんだ!」
その言葉の意味を理解したハルは的確にダーカーの因子の中心を狙い、イル・メギドを放った。
「決着を付ける!」
テクニックの衝撃を受けたウォーリックはそう叫ぶとこの場から消失した。
あたかも最初からこの場に居なかったように。
失われたという喪失感よりも、居なかった……その様な錯覚を感じる。
ウォーリックと言う人物は本当にここにいたのか。
その事すら疑わしく思える程だ。
「兄様ぁ!」
シェスファの悲痛な声がこだまし、全員を現実に引き戻した。
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